東京地方裁判所 昭和27年(ワ)4131号 判決
原告 杉山盛彦 外七名
被告 杉山薬品株式会社
一、主 文
原告杉山盛彦、同林栄三、同小黒光雄、同村木不二男、同松田ミサオ、同杉山江美が夫々被告会社の発起人として引受けた別紙目録<省略>(一)記載の株式の株主であること及び原告長尾敏雄、同織原八郎が夫々被告会社の設立に際し株式の申込により引受をした別紙目録(二)記載の株式の株主であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求原因として「
一、被告会社は、昭和二十三年十一月十七日設立せられた資本の額二十万円、一株の金額五十円、発行済株式総数四千株の株式会社である。
二、右設立にあたり原告杉山盛彦、同林栄三、同小黒光雄、同村木不二男、同松田ミサオ、同杉山江美は発起人として、原告杉山盛彦は千株、同林栄三、同小黒光雄、同村木不二男、同松田ミサオ、同杉山江美は各三百株を引受け、原告長尾敏雄、同織原八郎は各百株の株式の申込により引受をなし、いずれも当時株金全額の払込を了し、夫々右数量の株式を取得し、被告会社の株主となつたものである。
三、被告会社は現在に至るまで株券を発行していない。
四、被告会社は何等の理由なく、原告等が被告会社の株主であることを否認する。
仍て原告等は、原告等が夫々前述の通りの株式数の被告会社の株主権を有することの確認を求めるため、本訴請求に及んだ
」と述べ、
被告の抗弁事実をいずれも否認した。<立証省略>
被告訴訟代理人は、原告等の請求は棄却するとの判決を求め、答弁として、「
一、請求原因(一)の事実は認める。請求原因(二)の事実中原告長尾敏雄が百株の株式の申込引受をし、株金額の払込を了したとの点を否認し、その余の事実を認める。請求原因(三)の事実は認める。
二、原告杉山盛彦、同小黒光雄、同松田ミサオ、同杉山江美、同織原八郎はいずれも、昭和二十四年四月五日、原告林栄三、同村木不二男は、いずれも同年十一月二十日、被告会社代表者たる訴外松田(旧姓杉山)良江に対し、夫々所有株式全部を無償で譲渡したから以上原告はいずれも被告会社の株主ではない。
」と述べた。<立証省略>
三、理 由
(一) 被告会社が昭和二十三年十一月十七日設立せられた資本の額二十万円、一株の金額五十円、発行済株式の総数四千株の株式会社であること、(二) 原告杉山盛彦、同林栄三、同小黒光雄、同村木不二男、同松田ミサオ、同杉山江美が被告会社の各発起人となり、杉山盛彦において千株、林栄三、小黒光雄、村木不二男、松田ミサオ、杉山江美において各三百株を引受け、原告織原八郎が右設立にあたり、百株の株式の申込、引受をなし、いずれも当時株金全額の払込を了し、夫々右数量の株式を取得し、被告会社の株主となつたこと、(三) 被告会社が現在尚株券を発行していないことは、いずれも当事者間に争のないところである。
原告杉山盛彦の本人尋問の結果により成立を認める甲第二号証の記載及び原告長尾敏雄の本人尋問の結果によると、原告長尾敏雄は、被告会社設立にあたり、百株の株式の申込及び引受をした株主であることを認めることができる。被告提出の乙第十二号証の記載はまだこの点についての十分な反証とするに足らず、他にこの認定を覆すに十分な証拠は存在しない。
被告は、原告長尾敏雄を除く爾余の原告等が、いずれもその所有株式全部を訴外松田良江に譲渡したから、被告会社の株主でないと主張するので、この点につき判断するに、
乙第四、第十二号証を除く成立に争のない乙各号証、被告代表者松田良江の供述によつて成立を認める乙第四号証、原告林栄三の供述によつて、成立を認める甲第六号証、証人小林之江の証言並びに原告村木不二男、同林栄三、同杉山盛彦(以下盛彦と称する。)及び被告代表者松田良江の供述を考え合せるときは次のことが認められる。
「被告の代表取締役であつた盛彦は、被告会社の経営を誤つて多額の負債を生ぜしめた上妻たる訴外松田良江(以下単に良江と称す。)との間の夫婦生活に責任を持たず、良江以外の女性を家庭に引き入れて関係を結び、子供を儲けるまでに乱脈の限りをつくした上尚愛情に生きる等の言辞を弄して顧みなかつたので、被告の得意先たる(同時に債権者でもあつた)塩野義製薬株式会社の従業員であつた原告村木及び同林の斡旋により盛彦と良江は、昭和二十四年四月五日一応別居し、盛彦は関係中の松田操と共に良江の許を出て他に居をかまえ、良江は、残つて被告の代表取締役となり、原告村木及び同林はまた被告会社の取締役となつて良江を援助し、盛彦によつて残された被告会社の約四百万円の債務の整理と経営の復興に努めることとなつた。その際盛彦は、被告会社株式千株を無償で良江に譲渡し、又原告小黒光雄、同松田ミサオ、同杉山江美の所有する被告会社株式各三百株及び原告織原八郎の所有する被告会社株式百株を無償で良江に譲渡させ、その手続等に必要な書類を右各原告から徴して良江の為に原告林栄三に交付し以て良江の会社経営に資せしめんとした。
こうなつても、盛彦が折に被告の店舗に現れて売上金を持ち去る等のことがあつたので、原告村木及び同林は、指示して塩野義製薬株式会社の他の従業員をつかわして毎日の売上金を預らせ、これを以て被告の商品の仕入代金及び旧債務の弁済に充てる等一方ならぬ面倒をみてきたのであつたが、同年十一月所轄税務署によつて行われた被告の経理調査の際、些細のことから良江と原告林及び同村木の間で急に意思の疏通を欠くこととなり、原告林及び同村木は被告会社の取締役を辞し、共に被告会社から去るに至つた。」
原告村木不二男、同林栄三及び同杉山盛彦の供述中右認定に反する部分は、より強く信じうべき前掲各証拠に照して到底信ずることができないし、又被告代表者松田良江の供述中原告村木不二男及び同林栄三が取締役辞任の際その持株を無償で訴外松田良江に譲渡したとの点も未だ充分に心証を惹かない。そうであつてみれば、被告主張中原告杉山盛彦、同小黒光雄、同松田ミサオ、同杉山江美及び同織原八郎がそれぞれその持株を訴外松田良江に譲渡したことは認めることができるけれども、原告林栄三及び同村木不二男がそれぞれその持株を同訴外人に譲渡したことは認めることができないわけである。
ここに右認定の限度において株式の譲渡があつたことが認められても、被告会社は設立後まだ株券の発行をしていないのであるから、右譲渡が株券発行前のものたるや疑のないところである。しかしてかかる株式の譲渡は、株券の一般発行後はともかく、株券の一般発行前においては、会社に対する関係において効力を生じないものと解すべきであるから、会社がこれの有効なことを前提として譲渡人たる株式名義人の株主権を否認するためには、譲受人の求により株式の名義書換をなし、且つ、株券を発行した上でなければならない筋合であるというべく(昭和二十五年十月二十日言渡当庁昭和二十四年(ワ)第三八〇一号事件判決参照裁判所時報第六十九号十一頁)したがつて右譲渡の認定された部分についても、株券の一般発行をしていない被告会社が株式の譲渡があつたことを前提として原告等の株主権を争うことはゆるされないところであるといわなければならない。なお、被告は、乙第十二号証を援用して被告の株主名簿に右各原告(但し、原告長尾敏雄を除く。)引受の株式が訴外良江等の為に名義書換を経ていることを主張しているけれども、株券発行前における株主名簿は、未だ確定のものということができないから、これを法律上株主名簿として取り扱い、その記載を以て会社に対する関係における株式の名義を論断することは正当でない。乙第十二号証の記載は、未だ右論定に変更を加えるに足る証拠となすをえない。
よつて、原告等の請求を正当として認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 岡田辰雄 宮本聖司)